「3日間だけの天使ーおぎはらせいこまんじゅう(谷川・フラン・果菜絵)についてー」
馬喰町のオルタナティヴ・スペースDESK/okumuraの閉鎖に伴い、スペースを運営するアーティスト奥村直樹の友達を100人集めた展覧会「奥村直樹ノ友達展」(以下、友達展)が開催された。わたしは思うところがあって[★1]別投稿参照、ただ一人「奥村直樹ノ先輩」として参加した。先輩と名乗ってしまった以上、上のジェネレーションとして、何らかの評価をしなければならないと思う。[★2]奥村直樹は1989年生まれなので、わたしより6つ年下である。小さな貢献でしかないが、ここで、「奥村直樹ノ友達展」はなぷさ賞を「おぎはらせいこまんじゅう(谷川・フラン・果菜絵)」(以下、せいこまんじゅう)に与える。
せいこまんじゅうについては、谷川の報告があるので、作品の詳細についてはそちらを参照頂きたいのだが、簡単にせいこまんじゅうという「作品」について振り返る。[★3]「奥村直樹ノ友達展」出展作シナリオ
「奥村直樹ノ友達展」出展作ダイアリ その1
「奥村直樹ノ友達展」出展作ダイアリ その2
友達展の初日、大きなボンボンのついた赤白ニット帽を女性が現れた。ほとんどが20代前半の友達展参加者の中で35歳の彼女は明らかに浮いていた。とにかく、面白そうな人に声をかけまくっていたわたしが食いつかないはずもない。さっそくいじり倒した。その様子は、谷川のブログにアップされた映像にも残っている。突然、現れた彼女は自ら「おぎはら・せいこ・まんじゅう」と名乗った。いじって欲しい空気が出まくっていた。友達関係ではキャラが強いものが勝者だ。そして、そのキャラを生かしきったものがスクールカーストの中で権力の座に君臨できる。先輩として参加していたわたしは、当然権力を誇示したい。彼女をいじりまくった。せいこまんじゅうは、その場にいる全員に何らかの形で果敢に絡んでいった。センテンスの語尾に付される「まん」「まんじゅう」は全く意味をなさないが、せいこまんじゅうの人柄もあってか、なぜか安心感があった。いつの間やら、その場にいるものも、語尾に「まん」「まんじゅう」をつけ始めた。この、「まんじゅうウイルス」は、現場だけでなく、Twitterにまで広がった。[★4]Togetterで確認できる。「奥村直樹ノ友達展」2016.1.28~30@DESK/okumuraわたしは、せいこまんじゅうはただたまたま来場した観客だと思っていたのだが、最終日にアートグループMESを主宰する谷川果菜絵(友達展には、谷川・フラン・果菜絵として参加)の「作品」であることが明かされた。
さて、「おぎはら・せいこ・まんじゅう」とは誰だったのか?あるいは何だったのか?いや、せいこまんじゅうは作品として友達展に出品されたのだから、正確には、以下のように問わなけらばならない。せいこまんじゅうはどこに現れたのか?せいこまんじゅうという作品が依拠していたコンテクストとは何か?
結論から書こう。せいこまんじゅうは友達という関係性の中に現れた。彼女の存在にとらえどころがなかったのはこのためである。通常、関係性は見えない。また、共有されることもない。したがって、コンテクストとは呼べない。友達関係がコンテクストになってしまえば、そこは闘争の場になってしまい、結果的に友達関係は破綻するだろう。わたしたちは友達を友達であると名指さないことによってはじめて、友達になることができる。せいこまんじゅうはその不可視の友達関係の中に現れて、その関係性を暴露した。現場にいなかったかたには伝わりづらいだろうが、せいこまんじゅうは友達関係を撹乱したのではない。むしろ、彼女の存在によって友達関係は円滑化されていた。
なぜか。実は、友達展には、ほとんど友達関係が存在しなかったからだ。ないはずの友達関係、すなわち不在の関係性の顕現として、せいこまんじゅうはそこに在った。
そもそも、友達展には約100名が参加したが、お互いの顔も作品も知らない者がほとんどだった。[★5]この点、奥村直樹は周到だった。プレスリリースには以下の通り膨大な参加者の名前がある。
—
出展者は、藤林悠、図師雅人、TYM344、布施琳太郎、河村修一、な春夏秋冬な、くちくち、BOMBRAI、mgr、im9、飯島モトハル、市川哲也、多田恋一郎、西尾祐馬、キャッベパーマ、荒木美由、渡邊拓也、三原回、大木冴月、新井五差路、西村卓、あたみん、ヨネザワマコ、kikuchi ayako、はるき、ファンテン、當麻卓也、佐藤史治、原口寛子、安藤達郎、笹山直規、YA from the 8R a.k.a. やおねむ、吾妻吟、竹之内佑太、広瀬陽、内田ユイ、村松大毅、鰹とニメイ、渡邊悠太、宏美、じょいとも、木村有沙、けんとおくむら、藍白操、相沢僚一、新宅睦仁、鳴海テヨナ、廣瀬祥大、立岩有美子、渡壁遥、西田篤史、杉本憲相、米田コウタロウ、萩原葉子、あたみん、三井潤、溝下電気、渡辺美帆子、工藤春香、A・I 、阪中隆文、友達、龍村景一、渡邉洵、中村雅奈、とわすずか、近藤千尋、岡村芳樹、都築拓磨、林菜穂、高橋宏忠、渡邉洵、iwata mayuko、高崎綾子、ajmphu、安達亜希子、幾島貴之、松潤、horiuchi yuki、imaizumi、松尾悠人、八代隆彦、飯島優希、硬軟、ムカイヤマ達也、JAPOZGA、有賀慎吾、じゃぽにか、谷川・フラン・果菜絵、川原めい、匿名作家、ほか。
(参照:Exciteニュース、マイナビニュース)
—
実は、この出展者の中には、架空の人物名が多数含まれている。通常の展覧会の参加アーティストは数名だ。展覧会の運営者などを含めても10名以内の少人数でチームを組んで展覧会を作り上げる。多くの場合、展覧会企画以前から知り合いであることが多いが、そうでなくとも、展覧会を作り上げていくうちに仲は深まっていく。要するに、友達になるのだ。つまり、友達展よりも、一般的な展覧会のほうがずっと「友達展」なのだ。
しかし、「奥村直樹ノ友達展」には、そのような関係性はそもそもなかったし、新たな友達も生まれなかった。そこに在ったのは、せいこまんじゅうだけだった。彼女が明らかにしたのは、この友達の不在だった。そして、この関係性の不在こそが友達展の支持体だった。[★6]友達展のトークイベント「出張不道徳批評」で、飯盛希はDESK/okumuraをトポス(アリストテレス)としての場処と捉え、友達展を批判した。一方、わたしはDESK/okumuraをコーラ(プラトン、デリダ)としての場所と捉え、友達展を含めて肯定した。
この点において、せいこまんじゅうは極めてフォーマリスティックな作品であったと言えよう。[★7]「フォーマリズム」artscape Artwords(アートワード)
友達展に立ち会ったわたしたちは、この展覧会を、友達ではなく、せいこまんじゅうの声とともに思い出すだろう。きっと、友達展の思い出を語るとき、わたしたちは語尾に「まん」「まんじゅう」と付けるだろう。その発話は、せいこまんじゅうへの呼びかけであり、DESK/okumuraという場所(コーラ)への呼びかけである。せいこまんじゅうは、声として在った。その声は、関係性を司る創造主からの声だ。そう、せいこまんじゅうは天使として顕現した。たった、3日間だけ。[★8]おぎはら・せいこ・まんじゅうの本名は「聖子」と書く。
この天使の創造主は、谷川果菜絵という作家creatorである。鑑賞者としてのわたしたちは、この作家名だけを覚えておけばよい。しかし、谷川もまたせいこまんじゅうと同じく、作家artistではない。谷川はMESというアートグループのCEOである。彼女はアート・プロデューサーではあるが、作家artistではない。
結局、友達展に友達は一人も無かった。作家も無かった。わたしたちはただ「トーキョー天使の詩」を聞いた。[★9]そして、「閉じられた友達の円環」は、宇宙の平衡を保つために、「友達不在のダークエネルギー」を生み出したのだ。[★10]「『日本・現代・美術』椹木野衣」artscape Artwords(アートワード)
と、また幼いころの宇宙物理学者への夢がぶり返してきたので、最後に落語を見て筆を置こう。
こんどは、濃〜いお茶が一杯こわい、まん!
お後が、よろしいようで。
References
↑1 | 別投稿参照 |
---|---|
↑2 | 奥村直樹は1989年生まれなので、わたしより6つ年下である。 |
↑3 | 「奥村直樹ノ友達展」出展作シナリオ 「奥村直樹ノ友達展」出展作ダイアリ その1 「奥村直樹ノ友達展」出展作ダイアリ その2 |
↑4 | Togetterで確認できる。「奥村直樹ノ友達展」2016.1.28~30@DESK/okumura |
↑5 | この点、奥村直樹は周到だった。プレスリリースには以下の通り膨大な参加者の名前がある。 — 出展者は、藤林悠、図師雅人、TYM344、布施琳太郎、河村修一、な春夏秋冬な、くちくち、BOMBRAI、mgr、im9、飯島モトハル、市川哲也、多田恋一郎、西尾祐馬、キャッベパーマ、荒木美由、渡邊拓也、三原回、大木冴月、新井五差路、西村卓、あたみん、ヨネザワマコ、kikuchi ayako、はるき、ファンテン、當麻卓也、佐藤史治、原口寛子、安藤達郎、笹山直規、YA from the 8R a.k.a. やおねむ、吾妻吟、竹之内佑太、広瀬陽、内田ユイ、村松大毅、鰹とニメイ、渡邊悠太、宏美、じょいとも、木村有沙、けんとおくむら、藍白操、相沢僚一、新宅睦仁、鳴海テヨナ、廣瀬祥大、立岩有美子、渡壁遥、西田篤史、杉本憲相、米田コウタロウ、萩原葉子、あたみん、三井潤、溝下電気、渡辺美帆子、工藤春香、A・I 、阪中隆文、友達、龍村景一、渡邉洵、中村雅奈、とわすずか、近藤千尋、岡村芳樹、都築拓磨、林菜穂、高橋宏忠、渡邉洵、iwata mayuko、高崎綾子、ajmphu、安達亜希子、幾島貴之、松潤、horiuchi yuki、imaizumi、松尾悠人、八代隆彦、飯島優希、硬軟、ムカイヤマ達也、JAPOZGA、有賀慎吾、じゃぽにか、谷川・フラン・果菜絵、川原めい、匿名作家、ほか。 (参照:Exciteニュース、マイナビニュース) — 実は、この出展者の中には、架空の人物名が多数含まれている。 |
↑6 | 友達展のトークイベント「出張不道徳批評」で、飯盛希はDESK/okumuraをトポス(アリストテレス)としての場処と捉え、友達展を批判した。一方、わたしはDESK/okumuraをコーラ(プラトン、デリダ)としての場所と捉え、友達展を含めて肯定した。 |
↑7 | 「フォーマリズム」artscape Artwords(アートワード) |
↑8 | おぎはら・せいこ・まんじゅうの本名は「聖子」と書く。 |
↑9 | |
↑10 | 「『日本・現代・美術』椹木野衣」artscape Artwords(アートワード) |