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コロナウイルス(Coronavirus(COVID-19))の影響で、どこのミュージアムも閉館している。そんな中、東京から金沢に向かった。牛窓芸術祭にも招聘したアーティスト髙橋銑の個展「等しさひとつとりこぼさないように ”You Also Have the Backbone”」[★1]髙橋銑個展「等しさひとつとりこぼさないように 」
”You Also Have the Backbone”
https://www.facebook.com/events/190633202215761/
を見るためである。本当は、久しぶりに金沢21世紀美術館や、ぼくが世界で一番好きなミュージアム・鈴木大拙館を訪れることを楽しみにしていたのだが、どこも閉館中だ。それでも、展覧会部分を除いて遊覧可能だと知ったので、金沢駅からドトール金沢武蔵ヶ辻店を経由して21世紀美術館へと歩いた。SANAAが歴史を変えた建築に感嘆の溜息を漏らしながらミュージアムを回遊する。大学生と思しき学生が自撮りをしている。プロフィール画像にでもするのだろうか。自撮り棒を久しぶりに見た。

立ち入ることのできない展示空間をガラス越しに覗きながら歩いていると、自動ドアを見つけた。そうだ、ここにはジェームズ・タレルの《Open Sky》[★2]金沢21世紀美術館の作品は《Blue Planet Sky》というタイトルだ。でも、岡山に生まれ、地中美術館の《Open Sky》を見続けているぼくにとって、いつも、いつまでも、このシリーズは《Open Sky》というタイトルだ。
作品解説ページ(金沢21世紀美術館ウェブサイト)
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=30&d=4
があったのだ。閉館Closedしたミュージアムの中にあって、タレルの部屋だけは、タレルの空だけは開かれてOpenいる。

矩形に切り抜かれた曇り空を仰ぎ見る。雲が風に流される。時間の流れが見える。時間の流れに身を任せる。ぼくはいつから空を見なくなっただろう。幼少期にはスティーブン・ホーキングのような宇宙物理学者になりたかったのに。そのとき、白い空に黒いカラスが横切った。なぜ、彼らはOpen Skyに入ってこないのだろう?

鳥よけの仕掛けがあるのかと思ったが、空撮画像を見る限り、そのような仕掛けは見当たらない。それでも、鳥は入ってこない。地中美術館に同様の作品があり、何度も訪れているが、鳥が侵入しているところを見たことはないし、その気配すら感じたことがない。ここは、他の動物の侵入を許さない、人間だけの場だ。人間が空を見るための場所だ。

そう、タレルは、空と地面の間に2つのサーフェイスsurface(界面)を作ったのだ。アフォーダンスaffordanceの理論で知られるJ.J.ギブソン[★3]は、いくつかのサーフェイスのうち地面groundを最重視する。そして、地面の上の空は無限に開けている。無限に続く宇宙と地面の間に、タレルは2つのサーフェイスを差し挟む──人間と鳥の間のサーフェイス、そして、鳥と空の間のサーフェイス。人間と鳥の間のサーフェイスは、矩形に開かれた──荒川修作なら「切り閉じられた」と呼ぶだろう[★4]──視覚上の平面だ。では、鳥と空の間にとのサーフェイスとは何だろう。鳥は、どこまでも高く飛ぶことはできない。鳥と空の間にもサーフェイスはあるのだ。そうでなければ、宮沢賢治「よだかの星」のように、鳥は星になる。[★5]鳥は、そのサーフェイスをなんと呼ぶのだろう。

《Open Sky》から目を下げて、このテキストのメモを書いている最中に雨が降り出した。雨が、複数のサーフェイスを、刺す。ぼくらはいつまで経っても、空の向こうになんて行けない。地面と宇宙の間には、たくさんのサーフィエスがあるからだ。[★6]だから、この作品のタイトルは、《Blue Planet Sky》なのだ。
でも、いつだって《Open Sky》は開いている。

(花房太一)

References   [ + ]

1. 髙橋銑個展「等しさひとつとりこぼさないように 」
”You Also Have the Backbone”
https://www.facebook.com/events/190633202215761/
2. 金沢21世紀美術館の作品は《Blue Planet Sky》というタイトルだ。でも、岡山に生まれ、地中美術館の《Open Sky》を見続けているぼくにとって、いつも、いつまでも、このシリーズは《Open Sky》というタイトルだ。
作品解説ページ(金沢21世紀美術館ウェブサイト)
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=30&d=4
3.
4.
5.
6. だから、この作品のタイトルは、《Blue Planet Sky》なのだ。